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【古の記憶】-act8-

2008.03.26
【古の記憶】-act8-


老人と暮らし始め、数年が経過した。
その間、老人は皺の数だけが増えるのみで、であった当初と全く変わらずにいた。
同じように、竜の姿も幼いままだった。

庵へ訪れるのは、荷を運んでくる商人程度で、二人の時間は、外界とは深く異なるものだった。

ある日の事。
届けられた荷を眺め、ガーラが手招きをする。
最近、ガーラに与えられた竪琴を、おぼつかない手つきで奏でていたミストは、小さく首を傾け、招かれるままに傍による。

不意に、ぽすんと頭に何かを被された。
きょとんと首を傾げ、頭に乗った物を確認する。
それは、蒼い大きなぶかぶかの帽子。

「・・・老師。これ何?」

「帽子に決まっておろう?」

「・・・大きいよ?」

「うむ。そのようじゃの」

いつもの事ながら、会話にならない。
このガーラという老人、何かを尋ねても、まともな返事や説明が返ってくることは稀で、まず大抵はこうして問答のような会話になる。
つまるところ、自分で考えろ、と言う事らしい。

「・・・人の中で、異形である事が知られるのは危険。
驚いたり、くしゃみをしたりすると、僕は時々変化が解ける。大きな帽子は、頭を下げれば顔が見えなくなる。
・・・隠せる?」

じ、と帽子を眺めながら、ミストはぽつぽつと考えを纏め、問いかける。
老人の皺だらけの手が、髪をくしゃくしゃと撫でてきた。
───『良く出来た』、の意味。
ミストは1つ頷くと、すぽんとその大きな帽子を頭に乗せる。

「中々よう似合うておるの。ほれ。」

今度は同じ生地で作られたポンチョが出てくる。
それを頭からすっぽりと被された幼い少年は、まるで小さな魔術師のようになった。
満足そうな老人を眺め、しばらく帽子とポンチョに視線を向けていたミストは、ようやくこれが自分の為に用意されたものだと知る。

───不思議だった。
人ならば、ここできっと跳ね回って喜んだだろう。
けれど、竜の子にとって、それはとても不可思議な事。
ただ、これを身に着ければいいのか、と、人事のように考えながら、こくり、と頷いた。

僅かに残念そうな色の浮かぶ老人の顔に、僅かに胸がちくりと痛んで。

この日より、ミストは馬鹿が付くほど頑なに、常にこの服装のみを着用するようになる。



to be continued・・・・・


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