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【古の記憶】-act32-

2008.05.04

【古の記憶】-act32-


───それは、アルヴァダールと呼ばれた、その世界の始まりにまでさかのぼる。
遥か、遥か。昔の物語。





「姉様、今度の世界は、どんな世界にするの?」

そこは星空を移した一室。
床にまで届く、濃紺の髪を頂いた姉を見上げ、末の娘───アシェスナーダは瞳を輝かせた。
姉様と呼ばれた女、ナタシーアは、ふぅわりと笑みを浮かべ、その星空の海に両手を翳し、1つの『世界』を練り上げていた。

「そうね。前に作った世界は海だったから・・・。今度は、乾いた砂漠にしようかしら。
死んでしまわないように、少しの草。少しの生き物。
・・・・そうね。時折スコールを降らせましょう。」

静かな、けれども良く通る声で、ナタシーアが告げる。

「つまらないわ。そんな世界。
私なら、もっと綺麗な世界を作るわ。
緑があって、心地の良い風が吹いて。
綺麗な泉や海や森や谷があるの。
素敵な景色も沢山つくるわ。動物も植物も沢山。」

姉の言葉に、アシェスナーダは ぷぅ、っと頬を膨らませ、すぐに夢見るように両手を組み合わせると、うっとりと呟いた。

「そうね。でも、貴女はまだ幼いから。
世界を作るのは、まだ早いわ。アシェスナーダ。
お父様も、そう言ってらしたでしょう?」

「つまらないわ。つまらない。
エイリーシアス姉さまも、ノユーエル姉さまも、皆世界を作っているではないの。
私にも作れるわ。もう子供ではないもの。幼くなんて、ないわ。」

不服そうな末の妹を見下ろす姉の表情は、つかみどころがない。
静かな笑みを湛えているのみだ。
そうして 静かな、けれど凛とした声で繰り返す。

「貴女はまだ幼いわ。アシェスナーダ。もっと大きくなってから。」

───もう、このセリフを言われ続けて、どれくらいの年月が過ぎただろうか。
アシェスナーダは、うんざりと目を細めた。





「ああ、この世界も気に入らないわ!」

少々苛立った声が響く。
アシェスナーダの上の姉、ノユーエルの声。
ナタシーアの部屋を後にし、冷たく白い廊下を歩いていたアシェスナーダは、その声に足を止めた。

ノユーエルは少々飽きっぽい性格の上に、集中力に欠ける。
作っては壊し、壊しては世界を生み出していた。
幼いアシェスナーダの目から見ても、その世界の出来は酷いもので、自分が世界を作らせてもらえないのは、偏にこの姉の所存があったとしか思えない。

アシェスナーダは、そっとドアの隙間から、姉の部屋を伺った。
歳も近いせいか、どうもこのノユーエルとは気が合わず、こうして世界の創造に失敗をする度に、彼女の苛立ちの矛先はアシェスナーダへと向けられ、言われもしないとばっちりをこうむる事になる。

大人しくしとやかなナタシーアの部屋には良く入り浸っているアシェスナーダだが、この姉の部屋には、出向いたことがなかった。

部屋の中でノユーエルが苛々と、作りかけの世界を投げ捨てるのが見える。
通常、作り出した世界は、一度無に帰す処置を施し、新たな世界を作る決まりなのだが、時折、この姉はこうして無造作に世界の欠片を放ってしまう。
何度か、3番目の姉であるエイリーシアスが説教をしている場面を見たことがあった。

女神らしからぬ乱暴な動きで、ノユーエルが此方へと向かってくる。
アシェスナーダは、急いで部屋の物陰へと身を隠した。


───あの世界は、ノユーエル姉さまが捨ててしまったものだもの。
きっとまた姉さまは、あの世界を放っておくのだわ。
それなら。 私が貰っても、いい筈。

もう、何年も───気の遠くなるほどの時間を。
我慢し続けたアシェスナーダが、つい出来心を起こしたとして、誰が責められようか。
どきどきと高鳴る鼓動は、罪悪感故か。
それとも、憧れにも似た『自分の作り出す世界』への期待か。

程なく、ずかずかと部屋を後にしたノユーエルが、自分に気づかずに歩き去るのを見計らって、アシェスナーダはこっそりと姉の部屋に足を忍ばせた。

捨てられた世界は、既に混沌と化している。
アシェスナーダは、そっとその『世界』を拾い上げると、急いで姉の部屋を後にした。


───私のよ。私の、『世界』。だって、姉様は、この『世界』を捨てたんだもの・・・!!!───



アシェスナーダは、その足で自分の部屋へと飛び込むと、急いで扉を閉め、その混沌と化した、『捨てられた世界』を、見つからないように。
そっと、そっと。大事そうに、仕舞いこんだ。

禁忌であることを、知りながら。




to be continued・・・・・



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タグ : ファンタジー 小説

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Comment

No title

うわー。世界の運命は女神様次第(^^;

姉の部屋に忍び込む末っ子女神様・・・
なんだかそのシチュエーション、どきどきしました(^^)

No title

いき♂様>
ぅふ♪
舞台はちょこっと神話方面へ進みますw

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