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【古の記憶】-act29-
2008.04.28
【古の記憶】-act29-
-side-mist-
装飾の施されたその本には、タイトルも、作者名も書かれていない。
何の本だ?
小さく首を傾げるものの、大して気にもせず、ミストは本の表紙をめくった。
途端に、いきなり視界が真っ白になる。
覗き込んだ顔に衝撃が走り、息が止まる。耳に届くのは轟音。
何が起こったのか一瞬判らなかった。
慌てて本の表紙を閉じる。
衝撃はぴたりと止んだ。
それも、ほんの一瞬の事。
次の時には、ミストはその本を手にした状態のまま、ずぶ濡れになり立ち竦む事になる。
ぱたぱたと滴る水の雫。
半眼に目を開くと、本へと視線を落とした。
表題の無いその本は、元の様に、薄く埃のついたまま、『普通の本』に戻っている。
水のついた様子もなく、周囲を見渡してみても、ずぶ濡れになっているのは自分だけだ。
半眼のまま、本を床に下ろすと、つま先でさっきの様に本の表紙をめくってみた。
≪ざばーーーーーーーーーーーーーーーーー!≫
激しい音と共に、本から噴水のように水が噴出している。噴出した水は、天井や地面に当たると弾け、スゥ、と消えた。床も天井も、周囲にも、水でぬれた形跡はない。
───何これ。
妙に可笑しくなって、ミストは声を上げて笑った。
こんな風に笑うのは、何年ぶりだろう?
もう一度つま先で本の表紙を閉じると、あたりは元の静けさを取り戻す。
一体、ここはどんな人物が住んでいたんだろう。
棚に本を戻しつつ、他の本へと視線を移動させると、同じような表題のない本がいくつも見つかった。
恐らく、この表題のないものは、この手の悪戯が仕込んでありそうだ。
ミストは、くつくつと肩を揺らし、ぐるりとこの本の群れを眺める。
───当分は、退屈しないで済みそうだ。
まずは、この屋敷の事が知りたい。
新しいおもちゃを見つけた子供のように、ミストの心は、わくわくとした期待に満ちていた。
to be continued・・・・・
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テーマ : 自作小説(ファンタジー)
ジャンル : 小説・文学
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