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【古の記憶】-act18-

2008.04.12

【古の記憶】-act18-

-side-mist-



ザァ、と森の木々がゆれる。
濃い、緑の香りが周囲を包んでいた。

大地を蹴り、高く跳躍をした彼女の体は、煌く粒子の帯を引き、霧散する。
次の瞬間には、その姿は巨大な硝子細工を思わせる竜の姿に変化した。
その僅かに透けた蝙蝠の翼を思わせるそれを、大きく羽ばたかせると、森の上を悠々と飛翔する。

眼下に見える景色は、森ばかりだ。
時折見える泉や、既にかなりの年月が過ぎたと思われる風化した都市の名残以外、何も無い。
人の住んでいると思われる集落の類は、どれほど探しても見つからなかった。

否。集落だけではない。
見つからないのは、「人」の姿。
大地を駆ける獣が、時折彼女の姿に驚いたように此方を見上げる事はあっても。

───楽園。

ふと、そんな言葉がよぎる。
人間という種族の居ない世界は、なんて美しいのだろう。
風も木々も大地も皆、本来あるべき姿でそこに存在していた。


素晴らしい。ミストは嬉しそうに笑う。
くるりと空中で体を回す。
どんなに自由に飛びまわろうと、此処では自分を狩る者は無い。
大きく翼を伸ばす。
ぴんと手足を伸ばす。

自由に、自由に───

時が経つのも忘れ、ミストはこの森だけの世界を堪能していた。





-side-mirror-


────どれくらいの時が過ぎたのだろうか。
音も無く、風もなく、光も無く、闇でもないその場所で
すっかり泣き疲れたミストは、まるで襤褸屑の様に
空間を漂っていた。

人であったなら、恐らく既に気が狂って居ただろう。
虚ろな頭で、のろりと思考をめぐらせる。


何があった?
何が起こった?
此処は死の世界なのか?
なら、自らの体に感じるこの痛みは何だ?
死んだのなら 何故自分は息をしている?
この鼓動は?
視覚として映る瓦礫の群れは?


わからない事だらけだ。

ただ────

あの刹那。
確かに何かが起こったのだ。


瞳に光が宿る。
竜の娘は、ぐるりと周囲を見渡した。


この瓦礫の群れの何処かに
出口があるのかもしれない。
答えがあるのかもしれない。


くたばってたまるか。

体を動かすと、自らの意思のまま、その体は空間を移動し始めた。
まるで、ねっとりとした水の中の様。

彼女を動かすものは
本能的なものだったのかもしれない。
その心を支配していたものは、生への執着、それだけだった。


to be continued・・・・・





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