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【古の記憶】-act15-
2008.04.05
【古の記憶】-act15-
その後ミストと少女は町へ向かった。
町は酷いパニック状態だった。
ある者は奇声を発し、そこら中の家屋を壊して回り、またある者は荷車に山と積まれた荷物を引きずり、どこか逃げ場所を求めさまよっている。
少女はその中を硬い表情で進んでいく。
ミストは黙って彼女の後に続いた。
泣きわめく人々の姿は、哀れで滑稽だった。
やがて少女は一軒の教会へ、ミストを案内した。
教会の中には、数人の人の姿があった。
彼らは意外にも穏やかで、ミストを見ると、軽く頭を下げる。
「神父様、この方、谷の神のお使い様です。」
少女が一人の初老の紳士にミストを引き合わせた。
神父は一瞬目を見張ったが、すぐに穏やかな視線をミストへと向け、深々と頭を下げる。
「これは・・、ようこそおいで下さいました。」
「挨拶はどうでも良いけどね。礼ならこの子に言いなよ。
この子が僕の所へ来たから出向いたんだから。
助けられるかどうかは判らないよ。
君達人間次第だけどね。」
まるで感情の見えない無表情のまま、ミストはその場にいた者を見渡した。
中には数人おびえた目をしたが、憎悪や畏怖の目をミストに向ける者はいなかった。
こんな人間もいるのか。
ミストは少々意外だった。
人間という者は皆、異形を憎むと思っていたのだから。
今一度、ゆっくりと見回すと、ミストは静かに口を開いた。
「今回は君たちに免じて、助けてあげる。
ただし、これ一度だけ。
出来るかどうかは判らないけどね。」
おお、という感嘆の声がもれ、少女が花がほころぶような笑顔を向けた。
妙に人なつっこい笑みだった。
ミストが老師以外で初めて見る、自分の正体を知った上で向けられた笑顔。
ミストの中の人に対する嫌悪感が、わずかに薄れた。
教会のドアを開け、広場へと移動する。
教会にいた者たちも、黙ってミストの後に続いた。
広場も酷い騒ぎだったが、ミストは気にもとめなかった。
「いかがなさるおつもりで?」
神父がおずおずとミストに声を掛ける。
「隕石の起動をわずかに変えるんだ。それだけで大丈夫。」
広場にいた数人が足を止め、何事かとミストを眺めている。
ミストはゆっくりと手を前で組んで、目を閉じた。
光の粒子がミストの周りに集まりはじめる。
それは、容易いことでは無かった。
数千年かけ、蓄えた力を、少しずつ解放する。
大気から。木々から。大地から。水から。
呼びかけて、受け取る。
凝縮された力は、膨大なものとなり、その力によりあたりの物が砕け散っていく。
見開いた双眸は金色に染まり、後はその力を使い、ほんの少し。隕石の起動を逸らせば良い。
そう思った刹那だった。
「この・・・バケモノめッ!!!」
不意に罵声が飛んだ。
次の瞬間、こめかみに痛みが走る。
次々と投げられる石。
・・・愚か者共め・・・!
苛立つミストの視界の端に、矢が煌くのが見える。
魔力はまだ、解き放っていない。
避ける手段は持っていなかった。
射られるのを覚悟した次の瞬間・・・
────ふわり。
柔らかな何かが、自分に抱きついた。
矢がまるで、スローモーションの様に、自分の方へと向かい、その小さな温もりから、鮮血が飛び散った。
あの小さな少女だった。
少女の体は、ゆっくりと崩れ落ち、汚れた石畳を赤く染めた。
広場は、喧騒に包まれていた。
あの教会に居た者達が、次々と暴徒と化した人々に襲われ、地に伏せていく。
ぼんやりと、その様子を眺めるミストから、力が抜ける。
まるで、自分の周りだけ、時が止まった様だった。
集約していた魔力は霧散し、すでに力を失っていた。
愚かな・・・。何故僕をかばったりするんだ・・・?
ミストには彼らの行動が理解できなかった。
自分を殺そうとするならともかく、何故自分のためにその命をちらすのか・・・。
ふらりとあの神父がミストに近づいてくる。
ゆるりと、感情の無い瞳が、神父へと向けられた。
神父はすでに数本の矢が背中に刺さり、口からは紅い筋が流れ、もはや手遅れであることは明白だった。
「・・・この世界は・・・もう、だめなのですね・・・。」
悲しそうに、悟ったように神父がかすれる声を漏らした。
ミストは黙ってうなずいた。
そうそう何度も出来る術ではない。
ミストの力ではもう、どうすることも出来なかった。
神父はゆっくりうなずくと、広場から少し離れた位置にある森をそっと指さした。
「森の中に・・古びた洋館があります・・・。
昔から・・・神隠しの噂の絶えない、場所です・・・。
異世界に通じているとも言われています・・・。
どうかそこへお逃げください・・。
運が良ければ・・・この災難から、逃げ出せるでしょう・・・。」
ゆっくりと神父が崩れ落ちていく。
「もしも・・・もしも生き残れたならば・・・。
どうか他の世界の人に・・・伝えてください・・・。
我らのような過ちを・・・けして起こす事なかれ、と・・・。」
神父の瞳から光が急速に失われていった。
ミストに向かって、次々と石やら矢やら飛び交ったが、それらはすべてミストの体をすり抜け、
皆力を失い地に落ちた。
ミストは黙ってまだわずかにぬくもりの残る、少女の体を抱き上げる。
なおも奇声を上げながら、ミストに矢を射かけ、石を投げつける愚かな人々の間を横切り、神父の指した森へと消えていった。
この僅か数刻後・・・。
この世界は、滅びることとなる。
to be continued・・・・・
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